女伯爵ヤコバとネーデルラント継承戦争のだいたい

バイエルン・シュトラウビンク系のヴィッテルスバッハ家出身で、フィリップ善良公の従妹に当たる人、
なのにホラント・ゼーラント・エノー伯領をめぐって従兄のフィリップ善良公と戦いまくったヤコバさん。
フランス語だとジャクリーンとかジャクリーヌになるそうです。

このヤコバさんというのがもう、すごすぎる。女傑と言っていいんじゃないかなぁ。

ことの始まりは父親のホラント伯・ウィレム6世の死去で、当然ながら娘のヤコバがホラント・ゼーラント・
エノー伯領(だいたいまとめてネーデルラントという)を継ぐことになるはずだった。
でもここで横槍が入れられる。
バイエルン・シュトラウビンク本家の叔父さんにあたるヨハン・フォン・バイエルン(ヨハン3世)が

『女に統治なんて無理無理ww』

ていうノリで反対してきて、さらにヤコバとヨハンの双方の伯父にあたる(ややこしい)ジャン無畏公が
自分の甥にあたるブラバント公ジャン4世とヤコバを結婚させたわけで。
(ジャン無畏公はこの結婚式の1年後にモントローで殺され、シャロレ伯フィリップが後を継ぐ)

でも夫婦間の性格の不一致パネェwという有様だったので、ジャン4世が嫌になったヤコバはイングランドに
逃げたのでござる。そんでもってそこで出会ったグロースター公ハンフリーと結婚して、ジャン4世には三行半を
叩きつけてきたわけである、というのがだいたいのことのあらまし…と言いたいところなんだけどまだ続く。

グロースター公ハンフリーっていうのが何者かというと、ベドフォード公ジョンの弟なんだそうで。
まだ幼かったイングランド王ヘンリー6世の摂政をしてたんだってさ。
ベドフォードだのグロースターだのややこしいことこの上ない。

そのグロースター公ハンフリーは、フィリップ善良公が分捕ろうと狙っているネーデルラントをヤコバを
通して自分のものにしてやるぜ、とまぁすっかりその気になってフィリップ善良公に喧嘩を売ったわけさ。
そして対するフィリップ善良公はピリピリし始める。
いやお前、ネーデルラントは俺のもの(いや、ヤコバのものですけど)だろう。というわけで。

フィリップ善良公はここで一策講じる。
そもそもヤコバとブラバント公ジャン4世の離婚は対立教皇によって認められたもので、ローマ教皇によって
正式に認められたものじゃない。そこでフィリップ善良公はローマ教皇に『この離婚は無効ですよねぇ』
と申し立てたわけである。フィリップさん、やることが抜け目ないというかえげつないというか…

そしてローマ教皇によって、ヤコバとブラバント公ジャン4世の婚姻関係は続いていると認められた。
つまり現在の夫・グロースター公ハンフリーとの結婚は無効であることにされた。

ついでにグロースター公ハンフリーの兄・ベドフォード公ジョンに『お前の弟は何やっとんじゃああ!
てめえみたいなアングレーズと同盟関係結んでやってんのに、こっちの領土拡大の邪魔するとか
ふざけんな!』
と叱り飛ばしまして、対フランス戦線のためにブルゴーニュ公フィリップ善良公との同盟
関係を壊したくないベドフォード公ジョンはフィリップ善良公の妹にあたるアンヌ・ド・ブルゴーニュとの
結婚を受け入れ、グロースター公ハンフリーに『同盟先の気を悪くするようなことはやめろ!!!』
と注意した。

それですっかりへこんだグロースター公ハンフリーは、どうも結婚のことといいネーデルラントを巡る争いと
いい旗印がよろしくないと自覚してヤコバを見捨てまして。夫に見捨てられてもヤコバは頑張りぬいたんだけど、
あえなく従兄のフィリップ善良公のお縄につくことになったのだった。


しかしこれで終わるヤコバではないのだよ。


逮捕されて閉じ込められていたゲント(ヘントまたはガン)の街から近習の服装(ということは、男装)で
抜け出したヤコバ。そしてなおも従兄のフィリップ善良公と戦い抜くことになる。
見捨てられたはずのグロースター公ハンフリーの助けを借りたり、ホラント伯領で民衆を煽ったりしてともかく
『ネーデルラントは誰にも渡さぬわ!』の一念で頑張ったんだけど、ゼーラント伯領がフィリップ善良公の
手に落ちた。そうしてブルゴーニュ流の統治で善良公は一躍人気を得てしまった。

グロースター公ハンフリーも自分とこの女官あがりのアングレーズな愛人と再婚しちゃって、援助を望め
なくなってしまった。もうヤコバさん八方ふさがり。どうにもならない。デルフトへGO!
フィリップ善良公との間で結ばれたデルフト協定で、とりあえず名目上の伯爵位はヤコバに残された。
従兄のフィリップ善良公が『摂政』として事実上のネーデルラント統治を行うことになった。


だが素直に従兄の操り人形として動くヤコバではない。


ブルゴーニュ総督としてヤコバの財産管理を任されていたフランク・ファン・ボルセレさんもといボルセレン卿
に目をつけた。ヤコバ、敵対するブルゴーニュ公国に仕える貴族とまさかのこっそり再々婚。
何をしたかったかって?
もちろんホラント伯領を煽って対ブルゴーニュ戦線を張ろうとしたわけですよ。

しかし怒ったフィリップ善良公(この人は怒らせると本当に恐ろしい)がボルセレン卿を速攻で投獄。
ヤコバに対しては『お前なぁ、ホントいい加減にしろよ?もう二度とこんな真似できないように継承権
放棄してもらうかんな?でもって継承権は俺が引き継ぐかんな?わかったか、あぁん!?』

とかなんとか言って、かろうじてヤコバの保持していたホラント・ゼーラント・エノー伯の称号すら取り上げた。

こうしてブルゴーニュ公フィリップ善良公の肩書きに『ホラント・ゼーラント・エノー伯』の称号が加わり、
ヤコバはボルセレン卿と正式に結婚して居城のティリンヘン城に赴いたその2年後にひっそり病死
するのでありました。これをもって『ネーデルラント継承戦争』はフィリップ善良公の完勝で終わる。
しっかし、ホントにフィリップってやることがずる賢いよなぁ。
絶対『善良公』っていう性格してないって。



もどる