アザンクール!アジャンクール!アジンコート!(2)

一斉射撃と生け垣に阻まれたためにイングランド軍のところに辿り着いたフランス騎兵はわずかだった。
そのわずかなフランス騎兵を、イングランド騎兵とイングランド弓兵が力を合わせてフルボッコ。フランス軍の『数で押せ押せ』作戦は
もはや完全に機能不全状態に置かれていた。5~6万人にのぼる圧倒的な戦闘力があれば大丈夫だろうと思っていたフランス軍は
浮足立ち、何度目かの突撃命令を無視して勝手に退却する者も現れた。


オルレアン公「もういい、こうなったら私自ら前線に赴いて手本を示してくれる!」

ブーシコー元帥「オルレアン公!お一人では危険です。私もついてゆきましょう!」


そしてついにオルレアン公シャルルとブーシコー元帥が乱戦の渦の中に勇敢に飛び込んでいった!
戦後にオルレアン公はロンドン塔で四半世紀ほど過ごすことになり、ブーシコー元帥もヨークシャーに強制移住→客死することに
なるのだが、今はその話は置いといて視点をイングランド軍に移すことにする。


( ゚д゚ )「勇敢なるイングランドの兵士たちよ!
    あにう…陛下のおっしゃった1人3殺のノルマをしっかり果たし、フランス軍をパリまで押し戻せ!」

( ´∀`)「我らには聖ジョージのご加護がある。
      この戦を華麗に切り抜けたならば、イングランド市民も私の代わりにイングランド市民を護る
      わが弟ベドフォード公もきっと喜び、また勇気づけられるはずだ!」

ヨーク公「さぁ、兵士たちよ。イングランドで待つ同胞のために剣を振るえ!
      槍を構え、槌を下ろせ!ファッキンフレンチをこのアジンコートの地に沈めてみせろ!
      偉大なる聖ジョージのご加護により、天運は我らについている。攻撃を続けろ!
      この戦いを勝利で飾り、フランス王太子を打ち破り、我らの手に、パ、リ…を……」
 

兵士たちに混ざって檄を飛ばしていたヨーク公が不意に言葉を途切らせた。


( ´∀`)「いかがなされた、ヨーク公?」

ヨーク公「…………あ……」


次の瞬間、ヨーク公の手から指揮杖がこぼれ落ち、馬の背に前のめりに倒れこみ動かなくなった。


(;゚д゚ )「よ、ヨーク公!?」


あわてて周りの騎兵たちが指揮官のヨーク公に駆け寄り容態を確かめたものの、彼の意識はすでになかった。


イングランド騎兵「クラレンス公、ヨーク公が!」

(;゚д゚ )「ヨーク公!お気を確かに!」


ヨーク公は呼吸をしていなかった。重い鎧を纏って兵士たちの戦陣の中を動き回っていた彼は、鎧にこもる熱を失念していたのだ。
動けば動くほど体から熱が放出されて鋼鉄の鎧の下に熱気がこもり、熱射病のような症状に陥ってしまうのである。
これは騎士にとって命取りにもなりかねないことだった。


(;´∀`)「急いでヨーク公を涼しい場所へ運んでやれ!軍医を呼んで手当てを行うのだ!」

イングランド騎兵「はっ!」


意識不明のヨーク公は担架に乗せられ、軍医のいる天幕へ運び込まれていった。
右翼の指揮官を失ったものの、イングランド軍の統率は崩れることなくフランス軍への猛攻を繰り返した。
そしてイングランドの優勢は日暮れごろまでには決定的になり、ヘンリー5世は7000人の兵をもってアジャンクールの
会戦を見事に切り抜けたのだった。

フランス軍から捕虜にした者は6000名を数えたが、イングランドまで別のフランス軍の反撃を気にせずに連れ帰ることのできる
人数をはるかに超えていたためヘンリー5世はそのうち4000人にのぼる捕虜をその場で処刑せざるをえなかったのである。
そして日がすっかり落ちた後になって、ヘンリー5世の天幕にクラレンス公が沈んだ表情をしてやってきた。


( ゚д゚ )「兄上、ヨーク公が…」

( ´∀`)「……天に召されたのか?」

( Tд゚ )「結局、意識が…戻らぬままにっ…!それに、サフォーク伯も戦のさなか、お亡くなりに…」

( ´∀`)「……………」

( TдT )「『戦が終わったら、一緒に美味いワインを飲もう』とおっしゃっていたのにっ」

( ´∀`)「…涙を拭け、トマス。ヨーク公もサフォーク伯も運命だったのだ」

( TдT )「そんな、兄上!私は納得できません!」


ヘンリー5世は何も言わず、涙ぐむクラレンス公を残して天幕を出て行ってしまった。


( TдT )「兄上はよそよそしくなってしまわれた…国王となられる前はあんな風ではなかったのに」


クラレンス公はとめどなく溢れてくる涙をぬぐいながらひとりごちた。
とそこに、ヘンリー5世が酒樽を担いで天幕に入ってきたではないか。


Σ( Tд゚ )「あ、あにうえっ!?その樽は何です!」

( ´∀`)「わが軍が持ってきた中でも最高級のワインだ!すぐに杯を用意するから待っていろ。ヨーク公の約束は私が果たすよ」


ヘンリー5世は杯を探しに行くためにまた天幕を出ていった。


( ゚д゚ )「あ…」


数分後、4つの杯を手にヘンリー5世が戻ってきた。
杯を1つ取ってなみなみとワインを注いでクラレンス公の手に渡してから、自分のそばに別の杯を引き寄せて同じように
たっぷりとワインを注ぎ込んだ。


( ´∀`)つY「これはわたしの分、あとはヨーク公とサフォーク伯に捧げる分だ。今日はとことん飲みまくるぞ!
         さ、聖ジョージの栄光と戦の勝利を祝おう。乾杯!」

Y⊂( ゚д゚ )「…あの、兄上」

( ´∀`)つY「なんだ?」

Y⊂( ゚д゚ )「…ごめんなさい…」

( ´∀`)つY「…? 突然どうしたんだ?」


ヘンリー5世は不思議そうな顔をしてクラレンス公を見た。


Y⊂( ‐д‐ )(兄上を一瞬でも疑ってしまうなんて、私はなんて愚か者だったんだろう!)

Y⊂( ゚д゚ )「いえ、なんでもありません。では乾杯!」

(;´∀`)つY「???」


ヘンリー5世とクラレンス公がほろ苦い祝杯を交わしあっていたその頃、別の天幕から腕に包帯を巻いた王弟グロースター公
ハンフリーがのっそりと出てきた。


(゚」゚)「うっかり怪我しちゃったけど戦いには勝ったし、兄上たちと一緒に祝い酒を飲んでくるよ~」

従者「ダメです」

(;゚」゚)そ


既に酒樽に手を伸ばしかけていたグロースター公は、顔を硬直させて従者を見た。


従者「残念ですが、陛下から『手傷を負っているのだから無理はいけないよ。きみ、グロースター公には大事をとって
    休息をとるように言っておいてくれ』と言づてを承っておりますので」

(;゚」゚)「いや、こんなのかすり傷だし~」


グロースター公は包帯を巻いた腕を示し、ぶんぶんと振り回して見せた。


(゚」゚)つ「だからちょっと飲みに行くくらい~」

従者「陛下のおっしゃることを き ち ん と お守りください、グロースター公」

(;´」`)「……わ、わかったよ~。おとなしくベッドで休んでおけばいいんだろ~」


酒樽から手を離したグロースター公は、傍目から見てもわかるほどがっかりした表情で寝台の用意された天幕へと
すごすご戻っていったのだった。そしてアジャンクールの戦いから数日後、フランス軍の捕虜を乗せた船が
イングランドに向けて出港する。その船にはオルレアン公とブーシコー元帥も乗っていた。
オルレアン公は船のへりに体をもたせかけてため息をつき、静かにつぶやいた。


オルレアン公「……まさかこんな形でイングランドの土を踏むことになるとはなぁ」

ブーシコー元帥「おや、何かイングランドに縁がおありなのですか?」

オルレアン公「うん、イザベルからよく話に聞いていたのだよ」


オルレアン公は潮風で乱れた髪を整え、水平線の向こうにあるはずのブリテン島の方角を見つめたのだった。



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