Karl von Burgund 第1幕・1場

●1場の登場人物●
アンベルクール

ユゴネー

ラーフェシュタイン






アンベルクール
「わが君が大層な不運に見舞われたという噂を耳にしてからというもの、何やら言いようのない苦しみが
 襲ってきおる。我が君からの連絡も途絶えて久しいが、わたし達にはただひたすら待つことしかできん。
 ネーデルラントの諸邦も、閣下の消息がわからずじっと待ち続けるばかり。
 ああ、心臓がわが君の不幸を予言するように高鳴り続けておる…
 ネーデルラントの人々は皆この無謀な戦について噂しとるというのに、このブリュッセルにわが君からの
 連絡はいっかな届かぬ!」


ユゴネー
「実はわたくしも恐れておるのです。ふと、そのことを考えるたびに怯えてしまいまする。
 諸邦から集めた兵たちが戦で命を落として大地に横たわっていると考えるたびに…

 しかしブラバン、アルトワ、リュクセブルク、エノーには若き力に溢れる人々がまだわんさかいる。

 フラマン人は湖沼と豊かな水をたたえたライン川に住むホラント人を従えて、深き知恵をもってよく商う。
 フリースラント人はアントワープ人の造り上げた貴金属を詰めた荷を沢山くくりつけ、四方八方に馬を駆る。
 今こそこれらの諸邦が一致団結して、誉れ高きブルゴーニュを甦らせるべきではありませぬか。
 領主も公爵も手に手をとりあい、葡萄のたわわに実る麗しの丘を守るべきではございませぬか。
 何千、いや何万の民を率いるに相応しい指導者を見つけ、恐ろしい報せに怯える人々を危険から解放する
 べきではございませぬか!

 グリムベルク、ローゼンブッシュ、シメイ、クリュニー。彼らは冷静でしかも勇気ある戦士たち。
 金羊毛皮騎士のメイイは血みどろの戦の中を勝ち抜いてきた歴戦の猛者。
 シャリニーは根っからの武人。
 そしてモンタギューは敵を討ち損じることなどない沈着な将だ。

 他にもまだまだ勇気ある将は山といるというに、不安はつのるばかり…
 ふと気づけば溜め息ばかりついてしまう。
 親も妻も花嫁も、戦士の帰還を案じている有様…」


ラーフェシュタイン
「悲しみに暮れるばかりではなく、今はわたしたちで出来る限りのことをするべきでしょう。
 わたしたちの知る中ではっきりした情報は、遠征軍がジュラ山脈への進軍で散々に討たれて蹴散らされ、
 わが君も命運を共にしたということ」


アンベルクール
「誰一人その運命から逃れられなかったのか?我が君でさえも?
 決め手となる情報もなく、噂ばかりが尾鰭がついておる中で万が一にも生きている可能性を求めてはいけ
 ないのかね?
 ああ恐ろしい、不幸を呼ぶ神が我が君を散々引き廻し、悲惨な戦に駆り立て、彼岸に送ってしまわれたとは!
 考えるだけで気が滅入るわ!

 もはや我が君も戦士たちもいなくなった今、わたしたちはどうすればいい?
 わが君があれほど憎悪していた悪賢いフランス王から書簡が送られてきたが、これに頼れというのか?!」


ラーフェシュタイン
「ここは公邸なのですよ。 今後のことであれこれ思案するのもいいですが、徒に不安を煽り立ててはなりませぬ。
 この凄まじい猛威に雄々しく立ち向かうか、無力を嘆いてうなだれるか。
 近くわれらはじっくりと考えなければなりますまいが…とにかく今は耐えるのです!

 さて、わが君のご息女、我らの敬愛する美しいマリー公女のところに顔を見せに行かねば…」


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