フィリップ善良公(le Bon/ル・ボン)


1396~1467
(1419~1467…ブルゴーニュ公およびフリースラント公・ルクセンブルク公・ブラバント公・リンブルク公・ロティエール公・
 ブルグント伯・フランドル伯・アルトワ伯・ シャロレ伯・ナミュール伯・ホラント伯・エノー伯・
  ゼーラント伯・マーコン伯・ブーローニュ伯・オクセール伯・ポンテュー伯・ヴェルマンドア伯)




2代目ブルゴーニュ公ジャン無畏公の長男として生まれ、次期公爵としてシャロレ伯領を与えられる。
1419年に起こった父公の突然の暗殺により、ブルゴーニュ公として国を統治しはじめる。
その治世はほぼ半世紀に及び、百年戦争末期の混乱を潜り抜けブルゴーニュ公国の黄金期を造り上げた。
このフィリップ善良公の代にブルゴーニュ公国領は驚異的な広がりを見せる。
立派な風采を持ち、国王よりも国王らしいといわれる彼に対し、人は『西の大公』と呼んだ。

さてさて、ブルゴーニュの次代を担うシャロレ伯として何不自由ない生活を送っていたフィリップ。
妻のフランス王女ミシェル(シャルル7世の姉)とのんびりしていたところに、いきなり父公暗殺の知らせが!
人々の泣き叫ぶ声、気絶するミシェル、顔色が蒼白を通り越しまっ白になるフィリップ。
穏やかな昼下がりの部屋は阿鼻叫喚、まさしく地獄と化した…と記録されている。

(´゚ω゚`;)『これなんてドッキリ?』

そう考える暇もなく、何がなんだか分からぬままにブルゴーニュ公として公国を牽引することになったフィリップ!
公位継承した彼の前には問題が山積みとなっていた。
まず父公を暗殺したアルマニャック派、そしてアルマニャック派の首領シャルル王太子は絶対許せない。
シャルル王太子の姉を妻として迎えているフィリップだったが、今回の義弟の凶行は許しがたい。
父上を殺した義弟を王として仰ぐなんぞ、お断りだ。
ということで、フィリップはイングランドと協調路線をとってみることにした。
だがシャルル王太子としてはこれが面白くないわけで。

( ^Д^)『僕ぁ担がれただけだよ?あいつらが勝手に暴走して殺しちゃっただけで…』

…とはいえ、フランス王家に連なる大物貴族のジャン無畏公を殺してしまったことは、
王家にも少なからず衝撃を与えていた。フランス王妃と王太子の間の溝が深まったのだ。
狂った父王が死んだ時、シャルル王太子は『我こそはフランス王である!』と名乗りを上げた。
そりゃ当然ですよね。フランス王国のれっきとした王太子ですもの。
だが、実の母親である前王妃エリーザベト・フォン・バイエルン(イザボー・ド・バヴィエール)が
この三男坊の即位をけして許さなかった。

フランス第一の家臣を殺し、その息子をイングランド側に付かせてしまったその罪は重い。
たとえ担がれたにせよ、この不肖の子にフランス王を名乗らせたくない。
…と思ったのだろうか、それとも別の理由があるのだろうか。はたまた迷惑な気まぐれか?!
エリーザベトは息子を廃嫡し、フランス王の冠をイングランド王に渡してしまったのだった!
さぁ大変。国家元首となるはずのシャルル王太子が母親からまさかの勘当。
しかもイングランド王がフランス王を兼ねることになって波乱が波乱を呼ぶわけで。
この百年戦争後期のハイライトを飾るキラーパス。フランスにとっては地獄だが、イングランドに
とっては思わぬツキに恵まれたことになったのだった。

廃嫡された王太子は、仕方なく子飼いの郎党とともにブールジュに逃れて無冠の王として政府を建てた。
イングランド王に冠を奪われても、『我こそがフランス王である!』という誇りをけして捨てずに。
敵国イングランドと戦うために。
そしてブールジュで政府を運営する彼のもとに、ロレーヌからとある村娘がやってくる…

一方のフィリップ。
父公を暗殺された恨みに燃えてシャルル王に叛旗を翻すかたちになっていたものの、結構前から
『これでいいのか?』と思い始めていた。確かに父親を殺されたのは許せない。しかし…
このまま敵国イングランドに宗家のフランス王国を売り渡すような真似をしてしまって本当にいいの?
イングランド人にフランスを征服されちゃってもいいの?
それって本当に父上や祖父上が望んでいたことだろうか。
フィリップの中に流れる『ヴァロア家の血』がふつふつと滾ってくる。

(`・ω・´ )(イングランドにフランスを売るような不義理な真似ができるか!?      
       このままじゃいけないぞ。父上も祖父もフランス王家に忠義を尽くしていたのに、      
       自分だけ裏切るなんて出来ない。私だってフランス王家の人間なんだ。)

そう思い直したフィリップは、父公を殺された恨みを呑みこみシャルル王との和解の道を捜し始めた。
このフィリップの決断が結果として百年戦争を収束に向かわせるきっかけとなる。

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( ^Д^)『とりあえずさー…きみの父上を殺したことは謝るから、戻ってきてよ』

フィリップがシャルル王と和解しよっかな、と思っていたところに当の王からこんな打診があった。

(´・ω・` )『うん、それについてはこっちもちょうど考えてたところ。連絡ありがとう』

とりあえずフィリップは、フランス王との和平を水面下で進めていくことにする。
ついでにイングランド王も巻き込んで、もっとスケールを大きくしてしまおう。
裏で和平交渉を進めつつ、表舞台では自作自演とも思えるチャンバラを繰り広げる三国。
戦いを繰り広げるさなか、ブルゴーニュ公フィリップはフランス王のスカウトしたという村娘を捕まえる。
フランスからは『聖女』と崇め奉られ、イングランドからは『魔女』と罵られるこの村娘。
あのジャンヌ・ダルクである。

(´・ω・`; )『あのー、この村娘どうすればいいの?』

『時の人』を捕まえて困惑するブルゴーニュ公に、フランス王はあっさり切り返した。

( ^Д^)『あ、その娘もう要らないから。そっちで好きにして』

裏でフランス王との和平工作を続けているブルゴーニュ公フィリップではありますが、表面上は敵方。
とりあえず同盟者のイングランド王にジャンヌ・ダルクを引き渡すことにしました。
フランス王に見捨てられた(ブルゴーニュ公が提案してきた身代金が用意できず、イングランドに先を
越された、という話も!)ジャンヌ・ダルクがその後ルーアンで刑死したのはまた別の話…

さて、戦いはもう潮時だろう。
かねてから交渉を進めていた和平条約をそろそろ締結させなくては。
ブルゴーニュ公フィリップのお膳立てで、イングランド王とフランス王は和平条約を結ぶことになった。
これがアラス条約である。
これをもって英仏百年戦争は終戦ということにあいなりましたとさ。

諸国に混乱をもたらした長い戦争をなんとか終え、フィリップ善良公は領土拡大を計画し始める。
ブラバント、リンブルク、ルクセンブルク、フリースラント、エノー、ホラント、ゼーラント…
これらの諸邦を支配下に治め、ブルゴーニュ公は北方諸国に対する影響力をどんどん強めていった。

父と祖父の代にはただの『フランスの家臣』であったが、このフィリップはちょっと違う。
『フランスの家臣』かつ『フランドルの支配者』でもある。
今や南のブルゴーニュ公領・ブルグント伯領から北のフランドル諸国に広がる領土を治める大君主だ。
ブルゴーニュ公フィリップの活発な動きに、一旦は和平条約にサインしたシャルル7世も危機感を隠せない。

( ^Д^)『ブルゴーニュ公、このフランス王国から離れていくつもりかね?』

(((´・ω・` )『いえいえ、めっそうもない…』

シャルル7世はしきりに疑いにかかるが、フィリップはのらりくらりとかわす。

(:::::ω::::::)『陛下、私はフランドル伯の血を引いているのですよ…』

フィリップは心の中で呟き、ほくそ笑む。要するに『それはそれ、これはこれ』ってこと。
フランスの家臣の仮面をつけながら、彼はいよいよフランドルでの自身の地位を確固たるものにしていく。

フィリップ善良公に対してシャルル7世の抱いた危機感は、彼らの次の代に現実となる。
フランス第一の家臣にしてフランドルを統べる者。
フランス王家の血と、それに抗うフランドルの血が混ざり合って出来た『ブルゴーニュ家』。
祖父フィリップ豪胆公がフランドル女伯を妻に迎えたその時から、このヴァロア系ブルゴーニュ家の行く末は
決まっていたようだ。堀越孝一氏はこれを『ブルゴーニュ家の明確な宿命』と端的に言い表している。

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