シャルル突進公(le Téméraire/ル・テメレール)2

ペロンヌ騒動のあと、意気揚々と領地をモリモリ拡大していくシャルル。
フランス王も黙らせた彼の前にもはや怖いものなど何も無い…いや、あった。
一人娘のマリーの縁談がまだまとまっていなかった。
もう16歳になるというのに、未だに相手が決まらなかったのである。

いや、あまりにも○○だったから嫁の貰い手がなかったんだとかそういうのではない。
マリーはシャルルの親バカフィルターを抜きにしても素晴らしく美しい娘だった。
フランス王家の血を引き、美人でしかも金持ち。アンド広大な土地持ち。
求婚者が現れないはずがないではないか。
もちろん求婚してくる男たちは後を絶たなかった。
周辺の名のある貴族の子息が、シャルルに『娘さんを僕にください!』と言って来た。
だがこいつになら可愛い娘を任せられる!と思えるような男がなかなかいない。
みんなどこか頼りないのだ。

暴れ牛のごとく猪突猛進・勇猛果敢なお父さんを見てきているマリーとしても、
求婚してくる方々はどうも頼りない。
(そりゃ、あなたのお父さんと比べてしまってはランスロットも形無しでしょう)
ドサクサにまぎれてフランス王ルイ11世が王太子妃という称号をチラつかせて
マリーに王太子シャルルとの結婚を提案していたが、フランス嫌いのお父さんの
意向で即却下と相成っていた。

(゚∀゚*)(フランスはダメ、周辺の貴族もダメ。 他に自慢の娘と釣り合ういい相手はいないのか?)

シャルルはふとライン川の向こう岸を見つめた。
向こう岸には、神聖ローマ帝国がデデンと横たわっている。
そこからさらに東、ヴィーナーノイシュタットのほうには神聖ローマ皇帝がいる。
神聖ローマ皇帝の一人息子がちょうどマリーと同じくらいの年齢だ。

ここでシャルルは、神聖ローマ皇帝フリードリヒ3世に提案する。

『ちょっとお話したいことがあるので、トリーアで会いませんか』

ブルゴーニュ公シャルルのいきなりの提案に、フリードリヒ3世は訝しがりつつも
息子のマクシミリアンを連れてトリーアに向かった。

トリーアは現ドイツの西端に位置する歴史ある都市である。
ここでブルゴーニュ公と神聖ローマ皇帝の会談が行われる事になったわけだ。
皇帝との会談に意気込んだシャルルはこれでもかと着飾ってやってきた。
ピカピカに着飾った貴族達をわんさか引き連れ、最高級ワインやおいしい食事もたっぷり用意してある。
皇帝陛下のお迎えはバッチリだ。
神聖ローマ皇帝フリードリヒ3世はこのお迎えに内心驚いた。
いやちょっと待て。いくらなんでもこの歓迎ぶりはおかしい。
疑り深いジリ貧ヘタレ皇帝は「裏に絶対何かある」と感じ、訝しげに眉を寄せた。

ふと周りを見てみると、皇帝の一人息子マクシミリアンはさっそくシャルルと打ち解けている。
この会談に裏があるんじゃないか、なんて露ほども考えていない。
ブルゴーニュ公と彼の率いる貴族たちに憧れの眼差しを向けるマクシミリアン。

(・∀・)『シャルル公、この方々はみんなブルゴーニュ公国に仕える騎士なんですか?』
(゚∀゚*)『あぁ、勿論だとも。ここに居るのはみんなわが国の騎士たちさ』

磨きぬかれた槍や剣、ぎらつく鎧。
ブルゴーニュ公のマントや上着のそこかしこに飾り付けられた宝石が衣ずれの音と共に煌々と光る。
ヘタレの父・フリードリヒ3世のせいでジリ貧生活を強いられていたマクシミリアンにとって、この光景は
まさしく夢のような世界だったことだろう。
すっかり浮かれている息子を横目で見つつ、フリードリヒ3世は重々しく口を開いた。

('A`)『…で、今日は一体どのような用件でこちらに参られたのかね?』

(゚∀゚*)『皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう。
     単刀直入に言いますがね、オレ…いや、わたしの娘とこちらのマクシミリアン君との
     婚約をお願いしに参りました』
('A`)『ほう、婚約…』

西の大国ブルゴーニュ。
その後継者であるマリー公女との婚約。
それはつまり、豊かなブルゴーニュ公国がマクシミリアンのものになるということである。

('A`)『ということは、将来的にブルゴーニュ公国をまるまるこちらにくださる…ということでよろしいか?』
d(゚∀゚*)『ええ、その通りですとも!どうです?悪い話ではありますまい』
('A`)『しかしタダというわけではないのだろう?』
(゚∀‐*)『まぁこちらにも条件はありますが…
     それについてはこれからじっくり話して決めましょう!』

ということで、ブルゴーニュ公と神聖ローマ皇帝のサシでの対談が始まった。
だがしかし、この対談が進んでいく中でシャルルがとんでもない提案をし始めたのである。

(゚∀゚*)『婚約が決まったあかつきには、わたしをローマ王にしていただきたい』
('A`)『…なぬ?』
(゚∀゚*)『おや、もう耳が遠くなっておられるんですか?これは失礼いたしました。
     ではもう一度繰り返しますがね。わたしをローマ王にしていただきたい、と言ったんですよ』

ローマ王ってなんなのよ。
ローマの王様?いや、違う。
ローマ王っていうのは、神聖ローマ皇帝の後継者をさす名称である。
つまり。なんと。大雑把に言うとシャルルは自分を『皇太子にしてくれ』と言ってるわけだ。
これにはフリードリヒ3世もびっくりした。

(;'A`)『ローマ王は無理だ!そうそう、フリースラント王なんてどうだね? なかなかピッタリだと…』
(゚∀゚*)『いえいえ、皇帝陛下に何かあった時はちゃんとマクシミリアン君に
     バトンタッチしてあげますから!だから安心してわたしをローマ王に推挙してください!』
(;'A`)『いや、そういう問題じゃなくってなぁ…』

強大な権力を持つブルゴーニュ公をローマ王にすれば、神聖ローマ帝国内諸侯の非難轟々になるだろうことは目に見えている。
それにブルゴーニュ公女との婚約と引き換えにするにはあまりにもハイリスク・ローリターンである。
フランス王ルイ11世はブルゴーニュと神聖ローマ帝国が結びつくことを大変危険視していて、何とか
阻止しようとフリードリヒ3世に牽制を試みていた。シャルル突進公はというと、『ローマ王マダー?』と
フリードリヒ3世を急かしてくる。こうしたルイ11世の牽制、シャルル突進公の督促。

(;'A`)ゞ『困ったなぁ…』

フリードリヒ3世は頭をかきむしる。
事情を知らないマクシミリアンはすっかりシャルルに懐いてしまっている。
シャルルもマクシミリアンのことはかなり気に入っていた。
なるほど、これまで見てきた婿候補の方々とは違って骨のありそうな男の子である。
肩に掛かるほどの長さのふわふわ揺れる金髪。茶色がかった瞳はきらきらと輝いている。
背丈もすらりと高く、中学2年生とは思えないくらいがっしりした体格をしていた。
まさしく愛娘のマリーが常々口にしている『理想の騎士』そのものである。

(゚∀゚*)『この子にならうちのマリーを任せてもいいな』

そう思ったシャルルはマクシミリアンに向かって『うちの娘がいかに可愛いか』を滔々と力説しはじめた。

“そこいらの女の子なんて目じゃないぞ。うちの娘は天使のごとく可愛いんだぞ。
 ちょっとトロ目で色白で、明るい茶色の細い髪の毛をしてるんだぞ。
 いや、もう死んだイザベル(前妻)にそっくりなとっても可愛い娘なんだぞ。
(ここでマクシミリアンに肖像画を見せる)
 な?可愛いだろ?こんな可愛い子が奥さんになったらって思うだけでウハウハだろ?
 でもって器量ヨシと来たもんだ。
 それにな、うちの娘も き み の よ う な 精悍でカッコいい騎士がタイプらしくてな。
 どうだね?悪い話ではないだろう?”

弁の立つシャルルのことである。おそらくこんな調子でマクシミリアンに延々アピールしたに違いない。
マクシミリアンもまんざらではないようで、かなりその気になっている。
今のところ、舅と婿の意志は完璧に一致していた。

ところがマクシミリアンの父・フリードリヒ3世が承知しない。
そんなこんなで父親同士の話は平行線を辿り、いつしか数ヶ月が過ぎていた。
なんだかもうこのまま会談するのも面倒くさくなったフリードリヒ3世は、ある作戦を決行する。
エスケープである。
丑三つ時、寝ている我が子を引き摺って水路を辿りはるか東へエスケープしてしまったのである。

次の日、皇帝一行が忽然と姿を消したという話を聞き及んだシャルルは当然ながらブチ切れた。
皇帝のことをののしるわののしるわ。『あの罰当たりのトーヘンボク!』とか言ったそうだ。
(@江村洋著『中世最後の騎士~皇帝マクシミリアン1世伝~』)
こうして破談となったトリーア会談。お目当てのローマ王の地位はもらえなかったわけだが、前年
ドサクサにまぎれて占領していたヘルレ(ヘルダーラント)公領の公式的な領有を認めてもらって、
ヘルレ公の称号を戴いた。『ブルゴーニュ公およびフリースラント公~』の称号に加えてさらに
『ヘルレ公』が加わる事になったのであった。よかったね!



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