シャルロット懐妊

30節では『シャルロットをブルゴーニュへ迎えよう』という話し合いがされていましたが、
31節でシャルロットがルイのもとにやってきます。そして今回記事にした32節。

なんだか近頃元気がなく、健康が優れない様子のシャルロット。
一体全体どうしたんだ、なんかあったんかと心配が嵩じてシャルロットのお手伝いをしているお女中
ルレットをものすごい勢いで問い詰めるルイ。
姫君は軽い病気をお抱えのようです、と答えたルレットにルイは…

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(゚Д゚,,;)『軽い病気?病気だって!商人どものせいで気分を悪くしているのであって、
     夫に対してというわけじゃないよな。
     シャルロットの病気がなんなのか、はぐらかさずに教えるんだ!
     絶対にはぐらかすなよ。
     さっさと教えないか、いったいシャルロットの病気の原因はなんなんだ!
     おい、こら、いったい全体どうなってるんだ!』

その時シャルロットがすっかり元気を取り戻した様子で部屋に入ってきたので、
かわいそうなルレットはまったく混乱してしまったのだった。

( ‘∀‘)『ルイ、何をそんなに怒っているの!
       ルレットがいまにも死にそうなくらいに困ってるじゃない』

(゚Д゚,,;)『あー、悪かった…うんにゃ悪くない!ルレットが わ た し を 死にそうなくらい
     困らせるだなんて、そんな道理が通るもんか』

( ‘∀‘)『わたしのことでお困りだったの、ルイ?』

(゚Д゚,,;)『おうとも!「軽い病気」という単語に他の意味があるのかね。
     確かにきみは病気だったじゃないか』

( ‘∀‘)『今はもう気分が良くなったわ』

確かにシャルロットは全く快復したようだった。
夜食の時間になって城内の大広間に向かった際、シャルロットはしっかりとルイの腕にしがみついていた。
彼女はフランスの貴婦人のような足取りで歩くことができなかったので、ルイに後ろから支えてもらう
かたちになったのである。暖かなイタリア風の装いをしていた彼にシャルロットが腕を廻してきたため、
公の場で彼女を抱きしめているようなかたちになってしまったルイは少々まごついた様子を見せた。
しかしながら慣れてくると、心地よく好ましいと思えるようになってきた。

しがみついていた彼女の腕から力が抜けていって、何かに躓きその場にくずおれた。
ルイはとっさに手を差し伸べて助けようとしたけれども、卒倒したシャルロットを支えきれなかった。
そのまま足元に倒れ込んだ彼女の色とりどりに織られたスカートが円く広がり、ジェノヴァレースの
ヘッドドレスがふっ飛んで転がり、宝石で飾られ赤く塗られたかかとの高い靴があらわになった。

ルイはその靴の豪奢さに弱りきってしまった。
それらの宝石はこれまで誰も見たことがないくらいの、これに勝るものはない程の煌びやかさを持った、
サヴォア産のエメラルドだったのだ。

シャルロットは四肢を引きつらせ、半ば閉じられたそのまぶたの下は白目をむいていた。
彼女が苦しそうにあえいで口から泡をふくのを見たルイはすっかり恐ろしい想像に囚われてしまった。

((゚Д゚,,|||)))『ああ、神さま』

ルイは祈りの言葉を口にした。

(゚Д゚,,|||)『イエスさま、いとしい子を、いとしい妻を、シャルロットまでも奪わないでください!
      ああ、どうか、どうか、お願いします!』

そして彼は大声をあげて人を呼ばわった。

(゚Д゚,,|||)『おい、護衛を!ルレット、ルイーズ!アンリは、ルクレルク夫人は何処にいる!
      ジャンも呼んでこい!シャルロットを診てやってくれ!』

ルイは家中の者すべてに、年少のジャン・ルクレルクも例外ではなく助けを求めた。
だんだんとルイが人を呼ばわる声は神経質にがなりたてるような調子を帯びてきた。

(゚Д゚,,|||)『オリヴィエ!フェレットの胆嚢を持ってこい!』

ルイは上着の衿元をゆるめてベルベットの小さなポーチを探った。
そしてシャルロットの指に彼女の祖父のものだったエメラルドの指輪を嵌めてやった。
指輪は彼女の指には大きすぎたのですぐに落ちてしまったが、ルイはその指輪を拾ってやって
シャルロットの手のひらにしっかりと握らせてやった。

(゚Д゚,,;)『しっかりと握っているんだぞ、シャルロット。
     絶対に失くさずに、いつでも身に着けておくんだ。いつも、いつでもだ。
     聞こえているか、シャルロット?』

常に厳格で落ち着いた男性がここまで取り乱す有り様は多分誰も目にしたことがなかったろう。
呼ばれた家中の者すべてがすぐにやってきて、衛兵が石造りの大広間の守りを固めた。
見張り番が松明をかざし、年少のジャン・ルクレルクは剣を手にしていた。

シャルロットの女中たちが慌てて集まり、シェフたちはドアの隙間から様子を伺っていた。
外では日没を報せる鐘が鳴らされ、扉が轟音を立てて閉じられた。
真新しい鎖のキィキィ軋む音と共に、堀に渡されていた跳ね橋がゆっくりと上がり始めた。

ルイーズ・ド・ベトゥレーンという名の王太子妃の乳母を長年やってきた婦人が、シャルロットの
周りの人垣をその『おかん』と呼んでしかるべき肥った体型をもってかき分けていった。
彼女はシャルロットを一目見るなり微笑み、そして肩で支えてやった。

( ´ω`)『あなたがた!』

彼女の声はいくらか軽蔑を交えたような調子を帯びていた。

( ´ω`)『殿方というものは大抵こういった大騒ぎをするものですわ。
     特に赤ん坊を授かることになったような時にはね。
     さ、シャルロット。うつむいてばかりいないでしっかりするのよ。もう大丈夫だからね。』

ルイーズはシャルロットをその肥えた胸元にもたせかけて優しく諭した。

( ´ω`)『おめでとうございます、旦那さま』

彼女はルイにむかって微笑みかけた。
ルイはというと、まるで戦で輝かしい勝利を掴み取ったかのような喜びをその顔に浮かべていた。

( ´ω`)『シャルロットを心地よく安心できる環境に置いておくことが肝要ですわ。
     適度な運動も必要です。しかし狩りや乗馬は絶対にしないように。
     味の濃くない、滋養のある食生活になさいませ。
     常によい事を考えるように心がければ、強く賢い王子を…』

(゚Д゚,,;)『ちょっと待ってくれないか、ルイーズ』

ルイは続けて言った。

(゚Д゚,,;)『言っている事がみんな、わたしにはちぃと馴染みのないものなんだが』

( ´ω`)『そりゃあ当たり前ですわよ』

ルイーズはとても悦に入った様子でそう言った。
人垣から離れたところで、自室から出てきたオリヴィエ・ル・マルヴェが持ってきたばかりの
フェレットの胆嚢が入った小瓶をそっと上着の中にしまい込んでいたのだった。
(The Spider King・4章32節から)

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ルレット災難、ルイ狂乱、ルイーズ大活躍の巻。
『ルレットが わ た し を 死にそうなくらい困らせるだなんて、そんな道理が通るもんか!』の台詞は
『わ た し を』の部分がしっかりイタリック体で強調されていましたw
この節での見どころはやはり、『うまく歩けないシャルロットを後ろから支えてやるルイ』
『シャルロットのおじいちゃんの指輪を取り出して気絶したシャルロットの手に握らせてやるルイ』ですね!!
こういう甘ったるいシチュエーションをシャルルとイザベルにも分けてやってほしかった…



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