1423年、フィリップ善良公はグロースター公ハンフリーの兄でフランス摂政のベドフォード公ジョンにやんわりと釘を刺します。
(`・ω・´#)「おい、アングレーズの兄貴のほう。貴様の弟に関して話がある」
(;・∀・)「これはこれはブルゴーニュ公…弟のことで何か?」
(`・ω・´#)「何か?じゃないだろ!貴様の弟がネーデルラントに介入して俺の邪魔をしてるんだよ!」
(;・∀・)「えぇ~、ハンフリーがそんな勝手なことをしてるとは…」
(`・ω・´#)「知らなかったとは言わせんぞ?つーか、俺がヤコバの従兄なのは知ってるよな?
ヤコバひとりじゃ統治できないだろうから、優 し い 従兄の俺がヤコバに代わって
ネーデルラントを統治してやろうとしてるのに、あの女は勝手にお前の弟と再婚して
俺に楯突いてきやがってんだよ!あのアングレーズ、俺 の ネーデルラント市場を
勝手にイングランド領にしようと企んでんぞ!お前の弟だろ!なんとかしろよ!」
(((;・∀・))「ぎえぇえ~襟首つかんで揺さぶらないで!落ち着いてブルゴーニュ公!」
(`・ω・´#)「あのアングレーズのせいでネーデルラントの商業圏を逃すかもしれないんだよ!
落ち着いてなんぞいられるか!これ以上貴様の弟が勝手な行動をとるようなら
トロワ条約で決定されたイングランド・ブルゴーニュ間の同盟は破棄するぞ!!」
(;・∀・)「ひーっ!お金持ちのブルゴーニュ公の助けがなかったらイングランドは破産しちゃうよ!
わかった、ハンフリーはこっちでなんとかしてみる」
(`・ω・´ )「ならばよし!ついでにイングランド・ブルゴーニュ間の同盟をさらに強くするために
俺の可愛い妹のアンヌと 結 婚 させてやろう」
(;・∀・)「えっ」
(`・ω・´ )「俺の妹のアンヌはちょうど19になったばかりだし、適齢期だと思ってな。
それに『旦那が多少オッサンでも大丈夫』ってこの間言ってたからお前にやるよ。
34にもなってまだ一人身なんだろ?そろそろ跡継ぎとか作っとこうって思わない?」
(;・∀・)「ちょっと待ってくださいよ、だからってどうして貴方の妹と結婚する必要が…」
(`・ω・´ )「俺はお前の弟のことでとても怒っている。この見合い話を受けねばトロワ条約は…」
((;・∀・)「はひぃ!わかっ、わかりましたブルゴーニュ公!ぜひアンヌさんと結婚させて下さい!」
(`・ω・´ )「よしよし。じゃあ弟によろしくな。しっかり釘を刺しておくように」
(;・∀・)(釘を刺されてるのはこっちだよ~!)
同年4月、ベドフォード公ジョンとブルゴーニュ公フィリップ善良公の妹アンヌ・ド・ブルゴーニュとの結婚が
執り行われてトロワ条約で言及されたイングランドとブルゴーニュ間の同盟関係がますます強まりました。
そしてベドフォード公ジョンはグロースター公ハンフリーに『同盟先のブルゴーニュ公の機嫌を損ねちゃマズいぞ!
ネーデルラント問題に深入りするな!』と釘を刺しときます。でもネーデルラントの商業圏を確保したいハンフリーは
兄の苦言をまるっとシカトしました。
兄の言うことを耳を貸さずカレーに上陸したグロースター公ハンフリーは、1424年にヤコバの統治するエノー伯領
(オランダ語でヘネゴーウェン、ドイツ語でヘンネガウ)を制圧。ヤコバと一緒に調子こいて入城します。
同年、ヤコバとの間に子供が生まれているものの死産だったそうでハンフリーがっかり。
そしてエノー伯領のお隣ホラント伯領は当主の女伯ヤコバとブルゴーニュ公フィリップの戦争のおかげで
ものの見事にまっぷたつ。地元の2大党派ホエクス党(釣り針党、ドイツ語だとハーケン)と土着貴族が
ヤコバにつき、カビリアウス党(鱈党、ドイツ語だとカベルヤウ)はフィリップ善良公について大喧嘩。
(ホエクス^ω^)「この鱈野郎ども!お前らみんなまとめて釣ってやるおwwww」
(^ω^カビリアウス)「上等だお、釣り針野郎!
お前らの後ろで糸を引いてる奴ら、みんなまとめて食いちぎってやるおwwww」
みたいなやりとりがあったかもしれない。
そんなこんなでネーデルラント領内が大混乱するなか、フィリップ善良公の秘奥義が発動します。
□⊂(`・ω・´ )「ヤコバ、ハンフリー!ローマ教皇からお前らの結婚無効のお墨付きを戴いた!」
ξ;゚⊿゚)ξ「なっ…ローマですって!?」
(゚」゚)「ちょっと待ってよブルゴーニュ公、ボクはその前にヤコバとあのコキュのブラバント公
ジャン4世の結婚無効のお墨付きを貰ってるんだよ~」
(`・ω・´ )「ふん!そのお墨付きってのもどうせ近場の教会でもらってきたんだろ?
たとえば南フランスのアヴィニョンにいる対立教皇とか…な」
ヽ(;゚」゚)ノ「ギャー!何故バレたぁ!」
□⊂(`・ω・´ )「それぐらいこっちが調べてないわけないだろうが!
こっちは正統なローマ教皇のお墨付き、どちらに正当性があるかは明白だっ」
というわけでグロースター公ハンフリーとヤコバの結婚の無効が成立したのです。
ここまで来てやっとこさブルゴーニュ公の恐ろしさを理解し、兄の言ったことを反芻したグロースター公
ハンフリーはヤコバと離婚し、かねてからイングランドで愛人関係にあったエレナー・コブハムを正妻にして
しばしのんびりと落ち着いたのでありました。
ハンフリーの援助を失ったヤコバは1428年のデルフト条約にやむなく調印し、ブルゴーニュ公フィリップ
善良公を摂政(レウァルト)とすることを認め、ガン(オランダ語だとゲントまたはヘント)に蟄居させられ
ました。しかしこっそり脱出・ブルゴーニュ総督をしていたゼーラント貴族のボルセレン卿と再婚して自領を
取り戻すことを計画します。が、これを事前に察知したブルゴーニュ公によってボルセレン卿は投獄。
夫の命とホラント・ゼーラント・エノー伯の肩書きを両天秤にかけられ、ヤコバは夫の命を取りました。
こうして1433年、ホラント伯領内のハーグ(デン・ハーフ)で結ばれたハーグ条約で摂政・ブルゴーニュ公
フィリップが正式にホラント・ゼーラント・エノー伯としてネーデルラントを統治することになったのです。
元ホラント・ゼーラント・エノー女伯、今はただのボルセレン卿夫人となったヤコバは1436年に結核で
命を落としたという話。きっと従兄のフィリップ善良公との全面戦争で力を使い果たしたんだろうなぁ。
この前年の1432年、ベドフォード公ジョンの奥方になっていたアンヌ・ド・ブルゴーニュが死去。
それと前後してブールジュの王太子シャルル(廃嫡されたものの、シャルル7世を名乗っている)から和平を
結ぼうという話がブルゴーニュ公フィリップに持ちかけられてきます。
ここでフィリップは考える。果たしてイングランドとフランスどちらにつけばより有利か…
(`・ω・´ )(どうもイングランド王の評判がよくないんだよな~。ただのガキじゃねーかとか、
フランスをアングレーズに支配されてたまるか、とか、あの頑固なバアサンとか)
頑固なバアサン(=エリーザベト・フォン・バイエルン)の評判がとにかくパリ市民によろしくなかった。
(`・ω・´ )(あのバアサン、俺もどうにもウマが合わないんだよね。孫バカが嵩じてフランスの王冠を
ヘンリーにかぶせて。あんなガキにフランスを統治できるなんてホントに思ってんのかね)
頑固なバアサンと形ばかりのイングランド兼フランス国王ヘンリー6世、摂政として我が物顔に振舞う
ベドフォード公ジョンとグロースター公ハンフリー。1431年に神の意を受けた村娘でジャネットという、
シャルル7世について戦った勇敢な女を『もどり異端』でイングランド・フランス王国に損害を与えた魔女と
言いがかりをつけ、ルーアンで火刑に処している。
(´・ω・` )(やたらと身代金を用意するのが早いと思ったら、魔女だなんだといちゃもんつけて
19の小娘を生きたまま火あぶりとはな。アングレーズの田舎者は野蛮だよ)
ジャネット(ジャンヌ・ダルク)は「イエス様!」と叫んで死に、その魂は純白のハトになったとか言われる。
(´-ω-` )(おまけに煙にまかれて窒息した小娘の死体の股をおっぴろげて、『ほら見ろ、お前たちが
奇跡の娘だの聖女だのと言ってるこいつはただの女じゃないか』って言ったとかな。
死体の灰をセーヌ川に流しただのと噂に聞いたが、たかが小娘にずいぶん念入りなことだ)
これ以上イングランドについていても、イングランドと一緒に自分の評判が落ちるだけ。
世間ではすでに『あの良い君主であらせられるブルゴーニュ公が、ジャネットをイングランドに売り渡した!』
という芳しくない風評が立ち始めていた。『淫乱王妃』と罵られているエリーザベト・フォン・バイエルンの
二の舞はしたくないブルゴーニュ公フィリップ善良公。
基本的に派手好みのいい格好しいなとこがあるブルゴーニュ公フィリップ善良公。
とりあえず父のジャン無畏公が得ていたパリ市民の人気は確保しておきたいし、ジャネットの件で
暗雲が立ち込めているフランス王国内の市民の人気取りもしたい。
ヽ(´・ω・` )ノ「イングランドとの同盟や~めた!王太子と和平条約結んでこようっと」
このフィリップ善良公の決断があのアラス条約へ向かってゆくわけです。
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