いざ結婚、グロースター公リチャード!(3)

*(#´ `)*「…それじゃあ3日後まで失礼させてもらうわ」

(##)д(#)「えっ」


アン・ネヴィルは顔面崩壊したリチャードを残し、さっさと帰っていってしまった。
自分の落ち度とはいえ一方的に引っ叩かれたうえにタコ殴りにされ、しかもそのまま放置されたリチャード。
彼は西日が差しこむ時間になるまで茫然としたまま床に仰向けになっていた。


(##)д(#)「……もう夕方かぁ」


夕暮れの太陽光でオレンジ色になったリチャードはのろのろと起き上がると、召使いを呼んで水を張った洗面器と鏡を持ってこさせた。


(^ω^;)「い、いかがなされたんですかおグロースター公。これは酷い顔…w」

(##)д(#)「カクカクシカジカでアンヌさんにぶん殴られたんだ…」

(^ω^;)「…全く、ホントに自分から墓穴を掘るのがお上手なことで!いい墓掘り職人になれますおw」

(##)д(#)「他人を墓送りにするならともかく、自分を墓穴に埋めてどうすんだよ!」


リチャードは召使いの嘲り混じりのツッコミにやさぐれた様子で答えた。


(^ω^ )「まぁまぁ、ともかく顔を洗って。それからボコボコに腫れあがったほっぺたの具合をなんとかしましょうお」

(##)д(#)「…うん。このまんま結婚式とかありえんからね」

(^ω^ )「その前にこの状態を画家に描いてもらって、それを兄上がたに送り届け…」

ヾ(##)д(#)ノシ「うわぁん!嫌がらせはやめろよーっ!」

(^ω^ )「おっwおっwww冗談ですおwwwwww」


そう言うと召使いはタオルに冷たい水を含ませてから軽く絞り、リチャードの顔に一巻きした。


(##)д(#)「にしてもアンヌさんのあの暴力・暴言癖…なんとかならんかなぁ」

(^ω^ )「なんとかもなにも、アン様がああいう物言いをなさるのはグロースター公限定ですお?」

((##)д(#)「えっ」


一瞬リチャードの表情が固まった。


(##)д(#)「いやいや。アンヌさん、誰にでもあんなふうに話しかけてるんでしょ?」

(^ω^ )「ノン!アン様の召使いから聞いた話では、プリンス・オブ・ウェールズのエドワード様にはまるで
      生まれながらの王女であるかのような英国淑女そのものの物腰でお話なさっていたそうですお」


リチャードは唖然として召使いを見た。


(##)д(#)「…嘘だぁ」

(^ω^ )「残念ながら本当ですw」

(##)д(#)「なんで?それならどうしてアンヌさん、僕にはあんなに乱暴にしてくんの?」

(^ω^ )「昔からお付き合いのある気の置けない仲だから、親しみをこめてるんじゃないですかお?」

(##)д(#)「……真っ当な親しみのこめ方っていうものがあるよね。殴ったり暴言叩きつけてくるのは絶対親しみじゃない…よ…」

(^ω^ )「うーん。確かに、公におかれましては傍から見ても分かるほどアン様になめられてますおねw
      結婚前でこれじゃあ結婚してからの生活はどうなることやらw」


リチャードはうずくまって体操座りし、膝の間に頭を埋めている。


(##)д(#)「リスペクトしろとは言わないよ、でも最低限、僕の持つ尊厳くらいは認めてほしいな」

(^ω^ )「ま、頑張ってくださいおグロースター公。召使いとして応援してなくもないですからw」

(##)-(#)「君までそんなことを言うのかい!もう誰も信じられん…」


召使いからもナメられた口調で応援され、リチャードの目は失望と絶望ですっかり虚ろになっていた。
応急処置のおかげで眠るころにはすっかり頬の腫れは引いたものの、リチャードの心中はどうも穏やかではなかった。


(`・-・´;)「あーあ…結婚するのが怖くなってきた」


リチャードは布団をひっかぶったが、昼間のアンの狂乱ぶりが脳裏をよぎってなかなか眠れない。


(`・-・´;)「…勇み足だったかなぁ。もう数カ月くらい待ってプロポーズするべきだったかも…
       いや、でも僕が迷ってる間にまたプリンス・オブ・ウェールズのエドワードさんみたいなのが出てきてアンヌさんと
       結婚しちゃう可能性も充分あったわけだし…」


なにしろアン・ネヴィルは後世に『キング・メーカー』と呼ばれることになるあのウォリック伯リチャード・ネヴィルの次女である。
イングランドでもノルマン・コンクェストの時代から有力貴族の名をほしいままにしていた北方辺境伯・ネヴィル家に生まれた彼女は、
ランカスター朝イングランド王ヘンリー6世の一人息子であったプリンス・オブ・ウェールズのエドワード・オブ・ランカスターに嫁いだ
ことでその名と美貌をイングランドのあまねく場所に轟かしていた。

前イングランド王妃マルグリット・ダンジューが彼女を息子の嫁に選んだのも、そもそもアンの父である高名なウォリック伯リチャード・
ネヴィルがイングランド国内においてネヴィル一族の勢力を盤石とするためであった。
そういうわけでアン・ネヴィルの動向は、ほぼ生まれたころから今までイングランドじゅうの王侯貴族の注目の的になっていたのである。

幼い頃にウォリック伯邸に数年間住まわせてもらったことのあるグロースター公リチャードも、当然ながらアン・ネヴィルのことを
ものすごく気にしていた。少なくとも見た目 は 素晴らしく美しいお姫さまであるアンとこれほど近しい関係にあって気にならない
ようなことがあるだろうか、いやない。


(`・-・´;)「また他の男がどっからか出てきてアンヌさんをかっさらっていくのを指をくわえて見るより、
        今回正々堂々とプロポーズして僕のものにしたのは正しい決断だったはずだ!」


いや、『僕のもの』だの『正しい決断』と軽々しく言うのは早計すぎるかもしれない。
なにせ妻となるはずのアン・ネヴィル…わが愛、わが命と呼んではばからない運命のひとからしたたかぶん殴られたばかりだった。
結婚を機にアンが素行を改め、リチャードがどつかれる日々がパタリと止むという保証や可能性はどこにもない。


(`・д・´;)ゝ「僕、結婚したらアンヌさんとうまくやっていけるんだろうか?」


リチャードは不安に苛まれつつも、布団をすっぽりとかぶって眠ることにした。しかし…


『アンヌさん、なに持ってんの?…危ないからしまいなよ!ちょ、やめてっ、こっち来ないでぇーっ!!』

(^ω^;))「何事!?」


結婚式前日の朝のこと、召使いはリチャードの悲鳴で叩き起こされた。
あわてて主人の寝室のドアを開けた召使いは、ベッドから転がり落ちてなおうなされているリチャードの情けない姿を朝一番で
目の当たりにすることになった。


ヽ(;´゙д゙`)ノ「やめ…頼むからもがんといて~…」

(^ω^;)「…………………」


召使いは黙ってセラーへ直行すると、ミントで香りをつけたワインをグラスに注いでトレイに乗せ、さっさと寝室に向かった。


(^ω^;)「…グロースター公、お気を確かに。ほら、気付けにワインでもお召し上がりくださいお」

(´゙д゙`))「んぐっ」


召使いは半開きになっているリチャードの口元に無理矢理ワインを流し込んだ。


(´・д・`)そ「あれっ、アンヌさんは?」

(^ω^;)「落ち着いてくださいお。公におかれましてはさっきまでひどくうなされておられたんですお」

(´・д・`)「うなされて?じゃああれは夢だったんだ!」


リチャードは心底ほっとした様子で胸をなでおろしている。


(^ω^;)「……ひどい夢をご覧になってたみたいですおね」

(´・д・`)「うん…初夜をしくじってアンヌさんにチソコもがれる夢を見たの。全裸で。」

(^ω^;)「うわぁ」


召使いがやや引きぎみの仕草をとったが、これは『全裸で』という点ではない。この時代の人びとは基本的にほぼ全裸+
ナイトキャップで羽根布団をかぶって眠るのである。
そしてまだいくらか眠そうにしているリチャードは召使いの差し出した2杯目のワインを一気飲みしてからひと息ついた。


(`・д・´)「ま、夢でよかったよ」

(^ω^;)「…明日の出来事の予知夢かもしれませんお?」

(;`・-・´)「やめてよ縁起でもない!」


リチャードは険しい表情をして窓辺に寄りかかり、朝日のきらめく青空のむこうを見つめたのだった。
一方その頃、ネヴィル家の別邸でもアンが眠い目をこすりながら起きだしてきていた。


*(づ `)*「おはよ~。なんかすごい夢見ちゃったわぁ」

( ^ω^)「すごいってどんな夢だったんですかお?」

*(‘‘)*「リッチーくんがねぇ、なんかひどいことしてきたの。どうひどいんだったかは覚えてないんだけど、
    ともかく私ね、なにすんだゴルァ!って思ってめっちゃムカ~ッと来たの。
    それで鉈持ってリッチーくんのチソコをもごうとしてたの。全裸で。」

(;^ω^)「…アンお嬢様、チソコもぐほうがよっぽどひどいんじゃないですかお。全裸で。」

*(‘‘)*「いいじゃない、リッチーくんだし」

(;^ω^)「いや、よくないですお!アンお嬢様はもう少しリッチーさんに思いやりを持った方がいいと思いますお。
      聞けば一昨日もボッコボコになさったそうじゃないですかお…」


アンは侍女をキッとにらみつけた。


*(#‘‘)*「だって、侍女相手に子供産ませてたのよ!?」

(;^ω^)「世の男性諸氏にはよくあることですお、だから落ち着いて…」

*(#‘‘)*「リッチーくんだけはやらないって思ってたの!ていうかそんなことする勇気があるわけないって思ってたの」

(;^ω^)「…お気持ちは解りますお。でもリッチーさんもお年頃ですから仕方ありませんお…」

*(#‘‘)*「子供1人ならまだ許さないでもないわよ、でも3人ってどういうこと?ねぇどう思う!?」

(;^ω^)「流石のわたくしでもそれは引きますお」


アン・ネヴィルは侍女の肩をつかんでじっと彼女の目を見つめた。アンの緑がかった灰色の瞳には涙が浮かんでいる。


*(;;)*「でしょ、でしょ!?
     他の女に子供を産ませといて『一生きみを愛するって誓う』っておかしくない?説得力なくない!?」

(;^ω^)「…ですおね。でももう指輪交換しちゃったし、婚礼は明日だし…」

*(;;)*「…指輪を交換した後に、結婚式間際になって『子供がいる』って言うなんてぇ。リッチーくん、あんまりだわ…」

(;^ω^)「んーと、逆に考えましょうお。子供がいるっていうことは神さまの授かりものをアンお嬢様にさしあげるお仕事を、
      夫としての義務を果たすにあたって何の問題もないと。ですから初夜もそこまで怖がらなくてもよろしいかと…」

*(;;)*「ウー・ララ…そういや初夜があるんだっけ。すっかり忘れてた」


この時代の王侯貴族は立会人のもと公開初夜で婚姻証明をしなくてはならないという鉄則があった。


(;^ω^)「だから、リッチーさんは経験がおありです。アンお嬢様は安心してリッチーさんにお任せなさればいいのですお」

*(;;)*「…だって、リッチーくんだしぃ」


先ほどの『リッチーくんだし』と比べて、アンの口調はいかにも不安げになっていた。


(;^ω^)「アンお嬢様、涙をお拭きくださいお。わたくしが『初夜が万事滞りなく済みますように』と神様に
      しっかりとお祈りしてまいります、だから泣くのはおやめになって落ち着かれてくださいお」

*(;;)*「………………」


アンは静かに両の目から涙をこぼしている。
侍女は困った顔をしつつアンの背中をさすったが、どうにも彼女の涙は収まる様子がなかった。


(;^ω^)「そうです、もうひと眠りなさってはいかがですかお?
      ラヴェンダーかカモミールティーをお持ちしますから…とりあえずベッドにお戻りくださいお」

*(;;)* コクン


アンは静かにうなずくと、もそもそとベッドに入って布団をかぶった。
アンとリチャードがそれぞれの不安に押しつぶされそうになっていようとも太陽と月は容赦なく顔を出してくる。
そういうわけで婚礼の日がとうとうやってきた。


(^ω^ )「グロースター公、起きてくださいお」

( づд゙`)「んー…もう5分……」

(^ω^ )「予定通り挙式しないと、市民のみなさんや来賓のみなさんから怒られてしまいますお!
       さっさと顔を洗って歯をみがいて、それからお着替えなさってくださいお」


召使いは勢いよく布団をひっぺがしてからリチャードにガウンを渡した。
ガウンを羽織ったリチャードはベッドから出て窓の外を見たが、目の前に広がる空は見事な墨色だった。

(´゙д゙`)「………暗っ。ねぇ、今何時なの?」

(^ω^ )「だいたい2時ですお」

(´゙д゙`)「もう1時間くらい寝てくる…」


ベッドに向かって回れ右したリチャードの肩を、召使いが慌ててひっつかむ。


(^ω^;)「グロースター公、頼むからしっかりなさってくださいお。
      お気持ちは分かりますが、今日はお着替えに時間がかかるので早めにお起こししたんですお。
      二度寝なんてなさる暇はありませんお!」

((´゙д゙`)「…うーん…」


リチャードは眠たげに目を半開きにしたまま頭をぐらぐらさせている。


(^ω^;)「アン様だって今日は早起きして婚礼に備えてらっしゃるはずですお。
      そんな情けないお姿をアン様がご覧になられたら、きっと公におかれましては半殺しにされますお」

(;´゙д゙`)「そ、それは嫌!」

(^ω^ )「嫌だとお思いならちゃんと目を覚ましてきてくださいお、10分以内ですお!」

(´゙д゙`)ゞ「はぁい!」


リチャードが顔を洗いに部屋を出ていくと、召使いはその場に膝をついて頭を抱えた。


<(^ω^;<)「本っ当にもう、うちのご主人ときたら…今日が無事になにごともなく行くかどうか心配だお…」


召使いが十字を切っているところに洗顔と歯みがきを終えたリチャードが戻ってきた。


(`・-・´)「どうしたの、十字なんか切っちゃって」

(^ω^ )「…今日の婚礼がうまくいきますようにと」

(`・ー・´)「じゃあ僕もうまくいくようにってお祈りしてくる!」

(^ω^ )「時間がないですから、朝のお祈りは程々にお願いしますお?」

(`・ー・´)「ん、わかってるよ」


リチャードは鼻歌しつつ礼拝堂に出かけていった。


(^ω^ )「さて。僕はその間に礼服の用意を…」


召使いは今日のために用意した礼服一式を運び込んできたが、肝心のリチャードが一向に戻ってこない。


(^ω^;)「ったく、ご主人はなにやってんだお」


しびれを切らした召使いが礼拝堂にリチャードを迎えに行くと、彼はちょうど戸口から出てきたところだった。


(;`・д・´)「ごめん、待たせちゃった?」

(^ω^;)「それはもう。予定時間を5分もオーバーしてますお!何に手間取ってらっしゃったんですかお」

(`・д・´)「『結婚式がうまくいきますように』ってお祈りしてたら心配になってさぁ。
      『初夜でしくじりませんように』と『アンヌさんを怒らせませんように』、『僕とアンヌさんに元気な子供が授かりますように』、
       あと『いいお父さんになれますように』、『家族で幸せに暮らせますように』ってお祈りしたんだ!」

(^ω^;)「…それ、『万事うまくいきますように』で済むじゃないですかお」

(;`・д・´)そ

(^ω^ )「ともかく、もう礼服一式をご用意してありますので。とっとと着替えて玄関においでくださいお」

(;`・-・´)「10分で?」

(^ω^ )「そうですおねー…あれだけ豪華な礼服は着るのも難しいと思いますから、大まけにまけて45分ですかおね」

(`・ー・´)「ありがとう!じゃあさっさと着替えてくるね」

(^ω^ )「(ご主人の『さっさと』にはあんまり期待してないけど)迅速にお願いしますお!」


そして40分かかって豪華な婚礼衣装に身を包んだリチャードが玄関に着くと、召使いが雪のように白い馬を引いて待機していた。


(`・-・´)「…それ、僕が乗るんじゃないよね」

(^ω^ )「なにをおっしゃいます、公が乗るんですお。
       ご主人のせっかくの晴れの日ですから特別上等なのをご用意しましたお」

(;`・д・´)「…la cheval blanc?えっ、マジで?」

(^ω^ )「Oui!マジですお。さぁ乗った乗ったぁ!」


召使いは馬の立派な鞍を指で示してから、リチャードの背中を押してむりやり白馬に乗せようとした。


(;`・д・´)「待ってよ、せめて葦毛とか栗毛にして!こんなの僕に似合わないよ」

(^ω^ )「エドワード4世陛下とクラレンス公のアイディアでお選びしたのに文句をつけるんですかお。
       『白馬の王子』でアン様の心をときめかそうという広大深遠なご計画だというのに…」

(;`・д・´)「それ広大深遠じゃないよ。明らかに悪ノリで考えた罰ゲームじゃん!
        ね、白馬の王子様はどっか別の人に任せよう?僕は葦毛でいいから」

(^ω^ )「王子たるもの白馬に乗らなくては!un prince charmantが成立しませんお」

(;´・д・`)「『すてきな王子様』を僕にやれと…」


目を泳がせているリチャードを召使いは真剣そのものの眼差しで見つめている。


(^ω^ )「さ、覚悟を決めてこの白馬に。とっとと姫君を迎えに行きましょうお、王子様!」

(;´・д・`)「え…えぇっと…」


しばらくの間戸惑っていたリチャードだが、ついに観念して用意された白馬にひらりと飛び乗ったのだった。




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