オルレアン公シャルルはドーヴァーでブーシコー元帥と別れてロンドンに移動し、イングランドの貴族の案内で塔の中に入ることになった。
イングランド貴族「オルレアンの公爵どの、ご希望があればなんなりとおっしゃってください。釈放以外ならばこちらで何でもご用意いたします」
ヽ| ・∀・|ノ「ん、わかったよ。
早速だが無事にロンドルまで着いたことに対して主に祈りを捧げたい。時祷書を持ってきてくれるかい?」
イングランド貴族「はっ!すぐにお持ちいたします」
イングランドの貴族はオルレアン公の収監された部屋を足早に出て行った。
ヽ| ・∀・|ノ「捕囚の身ながら、案外快適そうな部屋を割り当てられたなぁ。このタペストリーはブラバン産かな?
ふむふむ、椅子や机の造りもアングレーにしてはなかなか…ベッドも寝心地がよさそうだ」
オルレアン公はゆっくりと自分の部屋を物色すると、窓から顔を出して外の景色を眺めた。
ヽ| ・∀・|ノ「おお~、ラ・マンシュがほとんど目の前に見えるぞ!カレーまで見渡せそうな勢いだな」
ラ・マンシュ(ドーヴァー海峡)は手を伸ばせば届きそうなほど近くに見え、この窓から足をかけて外に飛び出したら海をまたいで
フランスへと戻れるのではないかと錯覚するほどだった。
ヽ| ・∀・|ノ「わが故郷、うまし国フランスよ…再びお前のもとへ戻れるのはいつだろうね」
フランス王国は慢性の財政難に苦しんでおり、身代金の支払いができる保証はなかった。
そもそもオルレアン公シャルルはフランス王家に連なる貴族なので、イングランドも身代金を吊り上げる気満々である。
ひょっとしたら身代金を払ってもらえぬまま、この地に骨を埋めるかもしれない。
ヽ| ‐∀‐|ノ「このロンドル塔の中で死ぬか、それとも生きて帰れるか…運を天に任せるしかないな」
窓際で目を閉じロンドンの風の音を聴くオルレアン公に、先ほど時祷書を持ってくるように言われたイングランド貴族が部屋に入って近づいてきた。
イングランド貴族「あの、公爵どの?時祷書をお持ちしましたが…」
ヽ| ・∀・|ノ「ん、ありがとう」
イングランド貴族「ほかにご用はございますか?」
ヽ| ・∀・|ノ「今のところはないよ。あ、ごはんの時にまた呼んでもいいかな?」
イングランド貴族「はい、かしこまりました」
イングランド貴族はオルレアン公に一礼して部屋を去っていった。
ヽ| ・∀・|ノ「さて…ゆっくり祈りを捧げるか。テー・デウム・ラウダームス(神よあなたを賛美します)、
わたしを無事にロンドルへ辿り着かせてくださったことに感謝いたします…」
オルレアン公はしばらく時祷書のページを捲っていたが、部屋の隅になにか人の気配を感じてそちらを見た。
しかしここはオルレアン公専用の快適な監獄である。ゆえに彼以外に人などいないはずだった。
ヽ|;・∀・|ノ「うーん、気のせいか視線を感じるような…?」
オルレアン公は部屋の一隅を目を凝らして見つめた。
床を触って何かを確認したかと思えば、壁の柱の装飾を首を巡らせて眺めてみたりもした。
Å∀Å∀Å∀Å∀Å∀Å`∀´Å∀Å∀Å∀ÅÅ∀Å∀Å∀
恐怖を感じると、壁や部屋の装飾、天井の何気ないシミまで人の顔に見えたりするものである。
ヽ|;・∀・|ノ「何かが私を見てる、絶対に見てる…」
オルレアン公は頭を抱えてうずくまった。
ヽ|;・∀・|ノ「あの壁の柱の装飾…なんか顔に見えないか?」
オルレアン公はそっと顔を上げて柱の装飾を見上げた。柱の装飾に、何か半透明の人影のようなものが浮かびあがっているように見える。
( `∀´)
その時、ぼろをまとう痩せた男の顔をオルレアン公は確かに見た。
ヽ|;・∀・|ノ「!!!」
伸び放題になった金茶色の髪の毛の下で落ち窪んだ鳶色の目にこけた頬。首周りも折れそうなほど細く、浮き出たのどぼとけが痛々しい。
( `∀´ )
その男はオルレアン公を眼光鋭いまなざしでじっと見つめてきた。
ヽ|; ∀ |ノ(やっぱり何かいたーっ!)
( `∀´ )「………………」
痩せた半透明の男は何も言わずに佇んで、冷や汗をかくオルレアン公を見つめてくる。
ヽ|;・∀・|ノ(恐いよ!なんかあの眼を見てると呪われそうだよー!こっち見ないでぇぇえ!)
( `∀´)フイッ
ヽ|;・∀・|ノ(よかった、視線外してくれた)
( `∀´ )ジーッ
ヽ|; ∀ |ノ(と思ったらフェイントだったああああ!)
なぜ目の前の半透明の男が自分のほうを見つめてくるのか、オルレアン公にはさっぱりわからなかった。
オルレアン公は理由もなく見つめられることがひどく恐怖感を煽るものだということを今知ったのである。
ヽ|;・∀・|ノ(くそっ、こんなことで慌てる私ではない。あのアジャンクールで怖れなど捨て去ったはずだ!
そうだ、そっちが睨んでくるんならこっちも睨みかえしてやるぞ!)
ヽ|#゚∀゚|ノクワッ
キッと険しい表情をつくったオルレアン公は、目の前の半透明の男を精いっぱいの勇気をこめて睨みかえした。
( `∀´ )そ
ヽ|#・∀・|ノ(ん?なんか驚いてるみたいだな。よし、この調子でバリバリにガンとばしてやる!)
ヽ|##゚∀゚|ノクワワッ!
オルレアン公はグラハム・ボネットのごとく額に青筋をたてて半透明の男を睨みつづけた。
( `∀´ )「………………」
すると半透明の男は無言でオルレアン公に近づいてくるではないか。
ヽ|## ∀ |ノそ(えっ!?)
⊂(`∀´ )スッ
半透明の男は互いの距離が10センチというところまでオルレアン公に近づき、やせ細った手を差し出した。
ヽ|;・∀・|ノ(…えぇ?この手はなに?なんか意味があんのかな…)
⊂(`∀´ )
戸惑うオルレアン公の目の前でやせ細った手を差し出している、ぼろをまとったみすぼらしい男。
ヽ| ・∀・|ノそ(わかった!こいつはきっとロンドル塔の下に住んでる乞食なんだな!)
⊂(`∀´ )
ヽ| ・∀・|ノ「何か欲しいの?」
Σ(`∀´ )
ヽ| ・∀・|ノ「パンが欲しいならちょっと人を呼んで持ってこさせるよ。それともお金が欲しいの?」
Σ(`∀´;)
明らかに焦った様子を見せる半透明の男を尻目に、オルレアン公は自分の財布を探り始めた。
ヽ| ・∀・|ノ「ごめん、今5ペンスしかないんだ。それでもいいのなら…」
((`∀´#)))
ヽ|;・∀・|ノ「えぇっ!?」
目の前の半透明の男は、ぼさぼさに伸びた髪の毛の間から怒りに燃えた眼をオルレアン公に向けている。
ヽ|;・∀・|ノ「ご、ごめんなさいっ!お金じゃなくてパンだったの!?」
ヾ(`∀´#)ノシ
半透明の男は顔を真っ赤にして腕をばたつかせ、オルレアン公にジェスチャーで猛抗議した。
ヽ|;・∀・|ノ「お金も欲しくなくってパンもいらないって、あなた乞食でしょ!?どっちかがないとこごえ死んじゃうよ?
悪い事は言わないからこのお金だけでも…」
(`∀´#)『お金もパンもいらんっちゅーねん!さっきから黙って聞いとりゃ誰が乞食じゃボケェ!』
ヽ|; ∀ |ノそ
ついにブチ切れた半透明の男に怒鳴りつけられたオルレアン公は、彼のあまりの剣幕に思わず涙ぐんだ。
ヽ| ;∀;|ノ「ご、ごめんなさ……」
(`∀´#)『ごめんで済んだら警察はいらへん!なんやねんお前、さっきから人のことを睨んだ挙句に
乞食扱いってどういう了見やねん!親の顔が見てみたいわ、まったく!!』
ヽ| ;∀;|ノ「だ、だってガリガリだし薄汚いし服もぼろぼろだし…乞食以外のなんだっていうんですかぁ」
(`∀´#)『乞食ちゃうわ!お前みたいなクソガキに憐れんでもらうほど落ちぶれとらんわ!』
ヽ| ;∀;|ノ「で、でも…」
オルレアン公は何か言いかけてハッと口をつぐんだ。
そう、先ほどのイングランド貴族のフランス語がはっきりとイングランド訛りが入っていたのに比べてこの半透明の男のフランス語は
訛りはきついものの、間違いなくフランス王国内のどこかを思い出させる懐かしい響きが含まれていたのだ。
ヽ| ;∀;|ノ「あ、あのぉ」
(`∀´#)『なんや!反論なら聞かへんで!』
ヽ|;・∀・|ノ「いえ、そうじゃなくって…あなた、ひょっとして生まれはボルドーあたりですか?」
(`∀´ )『うん?せやけどそれがどうかしたか?』
ヽ|;・∀・|ノ「いや、実は私はフランス人、フランス王家につながる者でして…あの、オルレアン公って聞いたことありません?」
(`∀´ )『オルレアン公?あぁ、よう知っとるでぇ。ルイ叔父さんのことやな』
ヽ|;・∀・|ノ「ルイ!それは私の父の名です。父は8年前に殺されました…今は私、シャルルがオルレアン公を継いでいます。
まぁこのたび負けて捕まってしまいましたが。ていうか私の父を『叔父さん』ってどういうことですか!?」
(`∀´;)『はぁ!?ルイ叔父さんが殺されたぁ?目の前にいるあんたがルイ叔父さんの息子ぉ?いったいどういうこっちゃねん!』
ヽ|;・∀・|ノ「そのへんは後で説明しますから!ていうか私の父にあなたみたいなみすぼらしい甥はいませんでしたけど!?」
(`∀´#)『僕かて昔はこないにみすぼらしゅうなかったわ!ホンマに徹頭徹尾失礼なやっちゃな!
ルイ叔父さんの教育方針や躾はどないなっとんねん!』
ヽ|;・∀・|ノ「ひぃ、ごめんなさいっ!と、とりあえずあなたのお名前だけでもお聞かせください、名前がわかれば私も、
ひょっとしたら思い当たるところがあるかもしれません」
(`∀´ )『僕の名前?リシャール・ド・プランタジュネや。あんたの推察どおりボルドー生まれやで』
ヽ|;・∀・|ノ「リシャール・ド・プランタジュネ…ボルドー生まれってことはリシャール・ド・ボルドー」
ヽ|; ∀ |ノそ
半透明の男の言うことを反芻したオルレアン公の顔がさっと青ざめた。
プランタジュネはイングランド語でプランタジネット、その名は『えにしだ』にちなむイングランド王家直系の子孫を指し示す家名である。
さらにボルドー生まれのプランタジュネ家の男というと、今のところオルレアン公の中で思い当たる人物は一人しかいなかった。
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