シャルル・ドルレアンの愉快な捕囚生活(5)

無言で滂沱するオルレアン公をまるっと無視し、リシャールはこめかみを震わせてなにやらブツブツ言っている。


( ∀ #)『あぁーっ、ファック!メルド!イザベルちゃんにも知られとるなんて僕もう生きていけんわぁ!』

ヽ| ;∀;|ノ「あのですね…侍女の方もリシャールさんと離れ離れになって気落ちしてるイザベルをなんとか励まそうとして、
       わざわざロンドルへ行ったんですよ。まぁ結果としては逆効果になってしまいましたが、頼むからそこまで責めないであげて…」

p( ∀ #)『うるさい!イザベルちゃんが僕の生涯最低の日のことを知っとるってだけで人生絶望やわ。
        その侍女は死んだ後に地獄に行くか煉獄で永遠に苦しむとええ』


リシャールは親指を下に突き出して呪うそぶりを見せた。


( ∀  )『せや、そんでイザベルちゃんは僕がいない間どうしとったん?』

ヽ|;・∀・|ノ「しばらくヘンリー4世陛下の監視下におかれて…プリンス・オブ・ウェールズのヘンリー王子、えぇと…
       僕が先日アジャンクールで戦うことになったヘンリー5世陛下の奥方となってもらう、という話も出ていたそうですがお断りしたそうです」

( ∀  )『プリンス・オブ・ウェールズ?あのモンマスのクソガキのヘンリーがか?』


リシャールは眉間にしわを寄せて鋭い目つきでオルレアン公を見た。


ヽ|;・∀・|ノ「えぇ、父君が王位を継承なさったので王太子となられたんです。ただ外交路線で対立してらして…」

( ∀ #)『外交云々はどうでもええわ。ヘリフォードのヘンリー野郎はどこまで調子こいとんねん!
       僕の可愛いイザベルちゃんをモンマスのクソガキと勝手に娶せるやと?僕がポントフラで捕まっとる間にそんなことになっとったとは…』


リシャールは不快さをあらわにしながらベッドから立ち上がった。


( ∀ #)『で?モンマスのクソガキはイザベルちゃんとしっぽりやりよったんかぁ?!』

ヽ|;・∀・|ノ「落ち着いてくださいってば!さっきも言いましたが、イザベルはまるっとお断りしたんです!それでヘンリー4世陛下は仕方なく
       イザベルをフランスへ帰したんですよ」

(`∀´#)『…そっか。せやな、イザベルちゃんがヘリフォードのヘンリー野郎の子供風情になびくなんてよう考えたらありえんわ、
       や、よう考えなくてもありえへんな』

ヽ| ・∀・|ノ(よかった、なんだかんだで怒りが収まってきたみたいだ)


オルレアン公は少し冷静になってきたリシャールを見てほっと胸をなでおろしつつ話を続けた。


(`∀´#)『で、フランスに帰ってきたイザベルちゃんはシャルル君と結婚したわけやな?』

ヽ| ・∀・|ノ「はい、王妃の承諾を受けた後に僕からイザベルにプロポーズしたんです」

(`∀´ )『ん、シャルル君なら安心してイザベルちゃんを任せられるわぁ。ほんでイザベルちゃん、今は何をしとるん?
       シャルル君がこのイングランドでとっ捕まってるってフランスにも伝わっとるよなぁ?身代金とか集めてくれとるんかいな』

ヽ|;・∀・|ノ「えっ…えっと、イザベルは……」

(`∀´ )『せや、子供も生まれたって言うとったな!イザベルちゃん、子育てに忙しゅうてわたわたしとるんか?
       たぶん子供育てるのに夢中で、窓の外見て僕の帰りを待つ暇もないやろ?』

ヽ|;・∀・|ノ「あぁ…えぇと…」

(`∀´ )『どうしたん、さっきから歯切れの悪い返事ばっかやな』


口ごもるオルレアン公のただならぬ様子を見てとったリシャールは眉を寄せて聞き返した。
そして一瞬の後、オルレアン公は目に涙をたたえてリシャールを見た。


ヽ| ;∀;|ノ「…イ、イザベルは、6年前に…死にました…」

(`∀´ )『……は?』


リシャールは目を見開いたまま石像にでもなったかのように動かなかった。
そして何分か経ってから、彼はおずおずと顔を上げて震える声で言葉を紡ぎ出した。


(`∀´;)『…またまたシャルル君~、悪い冗談はやめてぇな』

| ノ∀;|ノ「本当です…イザベルは娘を命がけで産んで…っ…」


オルレアン公は涙で言葉を詰まらせた。
その様子を見たリシャールは何かを振り切ろうとするように首を横に振って叫んだ。


( ∀ ;)『嘘言うなぁ!嘘つきは大っ嫌いや、お前なんか殺したる!』

| ノ∀;|ノ「リシャールさん、どうか落ち着いて最後まで話を聞いてください」


リシャールの目は突き刺すような殺気を含んでいた。
彼は両手で顔を覆って、オルレアン公の言う事を拒んでしきりに首を振るのでぼさぼさに伸びた金茶色の髪はすっかり乱れてしまった。


(((つ∀∩;)『嫌や、そんな話聞きとうない!それ以上何か言うたらお前の口引き裂くぞ!!』

ヽ|# ∀ |ノ「リシャールさん!!あなたは僕の話を聞かなくちゃいけない!』

Σ( ∀ ;))ビクッ


声を荒げたオルレアン公に、リシャールは驚いて顔を上げた。


ヽ|# ∀ |ノ「イザベルはジャンヌを産んだあとに死んでしまったんです!
         ベッドに横たわって僕の手をとりながら、あなたの名前を呼んでいました…最期までずっと、あなたのことを気にかけてたんです!」


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(‘-‘|||)「…ごめんなさい…。わたし、リシャールさまをお迎えする前に死んでしまう、みた、い…」

ヽ| ;∀;|ノ「イザベル、そんな弱気なことを言わないでよ…
        僕と一緒にリシャールさんをアイルランドからお迎えするって約束したじゃない!」


オルレアン公はそう言ってイザベルの手を強く握りしめ、彼女の透き通った青灰色の目を見つめた。
しかしイザベルの目はオルレアン公ではなく、どこか遠い場所を見つめていた。


(゙-゙|||)「アイルランド……リシャールさま、もどって、こなかっ…た……
      …かえって、きたら…ずぅっと…わたしのそばに、いてくれるって…やくそく、した、のに」

ヽ| ;∀;|ノ(イザベル、リシャールさんは…)

(゙-゙|||)「シャルルさま、もし…リシャールさまが、かえってきたら……わたしは、しんだ、って…リシャールさまの、かえりと、
      アイルランドのおかし、まてなくて…ごめんなさいって、いって…」


オルレアン公は、自分が握りしめているイザベルの手から力が抜けていくのを感じていた。
そして彼女の肩に死神が手を置いているのを見たような気がした。


ヽ| ;∀;|ノ「イザベル!行っちゃだめだ、ジャンヌと僕を置いて行かないでよ!」

(゙-゙|||)「りしゃーる…さま…。…ごめんなさい、ごめんなさ…い…」

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ヽ|||| ∀ |ノ「イザベルはずっとあなたを待って、待って、待ち続けてっ…」


オルレアン公はやっとそれだけを言い終えると、歯を食いしばって俯いた。
リシャールは肩を小刻みに震わせて死人のような顔色で(死んでるけど)うずくまっている。


((つ∀∩|||)))『嘘や、嘘やぁ、嘘やぁあ…』

ヽ|||| ∀ |ノ「最期の息を引き取るまで、ずっとリシャールさんを呼んでました。僕よりもずっとあなたが大切だったんです。
        いつも『きっと帰ってくるから、その時のためにリシャールさまにパイやタルトを作ってあげるの。長い遠征でおなかを空かせて
        らっしゃると思うから』と言って、毎日決まった時間にオーブンで焼いてましたよ。『リシャールさまに教わって、メイドからも
        色々教えてもらってやっとうまく焼けるようになったの。きっとリシャールさまがこれを食べたらびっくりするわ』と…
        それなのに、イザベルがこんなにあなたのことを想っていたのに…」


オルレアン公は目を吊り上げて、うずくまるリシャールを怒鳴り付けた。


ヽ|# ∀ |ノ「どうして勝手に死んで、しかもこんなところで地縛霊やってんすか!」

(つ∀∩|||)『んな事言われても…』

ヽ|# ∀ |ノ「終油の秘跡と告解で、イザベルは多分天国に召されたはずです。
         リシャールさんに会えているだろうからきっとイザベルは天国で幸せに暮らしてるだろうと今の今まで、アジャンクールで
         捕虜となってロンドルに来るまで呑気に思い込んでましたよ!でもあなたはこのロンドル塔にいらっしゃる。
         ポンティフラクトで死んだという噂も本当だった。全くメルド以外のなにものでもないですよ!」

((つ∀∩|||)『そ、そんなぁ』

ヽ|# ∀ |ノ「天国に逝ったイザベルが可哀想だと思わないんですか!
         あなたが僕のイザベルをどれだけ悲しませているか……謝りなさい!
         イザベルと、あなたが帰ってくると信じてイザベルが毎日焼いたパイとクッキーとタルトに地に額をこすりつけて謝るんです!」


オルレアン公のあまりの剣幕に、リシャールはすっかり縮こまっている。
そして時ならぬ怒声にすわ事件かと驚いたイングランド貴族がオルレアン公の部屋の扉を叩いた。


イングランド貴族「あの、何を怒ってらっしゃるのです?ご不満があるのなら私ども、一同で力を合わせて改善いたしますが」

ヽ|#・∀・|ノ「あぁ、どうもここに棲んでいるブラウニーやらピクシーがうるさくてね」

イングランド貴族「うーん、妖精ですかぁ。それは我々でもどうしようもないんで…
           とりあえず夜にミルクを1杯お持ちしますんで、どっかそこらへんにお供えしてください」

ヽ|#・∀・|ノ「お心遣い痛み入るよ」


『妖精がうるさくて』という現代からみればトンデモな理由で納得したイングランド貴族は階段を降りて行った。


ヽ|#・∀・|ノ「さて、妖精さんもといリシャールさん!あなたの帰りを待ち続けて死んだイザベルに悪いとは思わないんですか?
        このロンドル塔でお会いしたのは本当にびっくりしましたよ、びっくりしすぎて怒りが収まりませんし、あなたを殴ろうにも
        半透明で殴れない。振り上げた拳の落とし所が見つかりませんね全く!」

(つ∀∩|||)『だって僕、知らんかったもん…イザベルちゃんに僕が死んだって伝えられとるとばっかり思っとったし、シャルル君と結婚して、
        僕のことなんかさっぱり忘れて幸せに暮らしとるもんだと』

ヽ|#‐∀‐|ノ「僕はイザベルに恋焦がれて、結婚を申し込みました。イザベルのことを全身全霊をかけて愛してきました。
        でもイザベルは僕を見てなかった、遠いアイルランドにいるはずのあなたを見てました。
        結局僕の片思い、イザベルはあなたを忘れることなく不幸せに暮らしていたということです」


オルレアン公の口から『不幸せに暮らしていた』という言葉が出ると、リシャールはびくりと肩を震わせた。


(つ∀∩|||)『ふしあわせ…イザベルちゃんをそんなふうにしたの、僕のせいなんか?』

ヽ|#‐∀‐|ノ「はい、あなたのせいです。徹頭徹尾 あ な た の せ い で す 」


オルレアン公は最後の言葉を強調するように、わざと一文字ずつ区切って話した。


(つ∀∩|||)『………僕のせい…僕の…』


リシャールは背中を丸めて俯き、呻きともつぶやきともつかないことを繰り返しながらベッドの上に座っている。


ヽ|#‐∀‐|ノ「………リシャールさん、ウザいから出てってくださいますか。ここでメソメソされても迷惑ですから」

(つ∀∩|||)『…んなこと言われても僕、こっから動けんもん…』

ヽ|#‐∀‐|ノ「…仕方ないな。じゃあ僕が出てってあげますよ。貴方はここで泣くなりわめくなりお好きにどうぞ!」


オルレアン公は乱暴に扉を開けて部屋から出ていき、独り取り残されたリシャールはベッドの上でうつぶせになって肩を震わせ泣きだした。


・゚・(つ∀∩ )・゚・。『うおぉぉん、イザベルちゃん!イザベルちゃぁあああん!!』




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